月がとっても


……そんなことをぼんやりと考えながら、目の前の本棚に向き合った。


返却の図書を棚に戻していると、ふと棚の奥に一冊の本が詰まっているのが見えた。

無意識のうちにそれを引き抜くように取ろうとしていて、他の本が棚からバサバサと音を立てて落ちた。

落ちた本を気にすることも出来なかった。



強く惹かれたから。
その本に。



深い緑色の絵本。

綺麗な表紙には見覚えがある。



「先輩?」

「あ、悪い…」



神崎の声に、意識が引き戻される。
俺は慌てて落とした本を拾い上げた。



「……幸福の王子ですか?」

「あぁ」

神崎の視線が、俺から絵本へと移された。



「この絵本、昔持ってた」