月がとっても



「ギターも弾くんですね」


放課後の音楽室。
置いてあったギターを気まぐれに弾いてみた。

音が響くと、神崎は興味深そうに零した。


約束したわけじゃないけれど、図書委員の当番の日以外の放課後は俺も神崎も音楽室にやって来てきては音楽を聴いたり、たどたどしくはあるけれど話をするようになっていた。


4月の初めに委員会で一緒の当番になって初めて言葉を交わした時に比べると、神崎は随分口数が増えたと思う。声は相変わらず小さいけれど。



俺は神崎の言葉に返事をするように指先で弦を鳴らした。

聞き覚えのあるメロディに神崎はあっと声を漏らした。


「……Englishman in New York」

「正解」


Stingの『An Englishman in New York』
貸したCDで神崎はこの曲が一番好きだと言った。


どこか物悲しい雰囲気をした音楽。

鼻歌のように少しだけ歌詞を口ずさむ。


この曲を聴いていると、いろいろなことを考える。


タイトルと同じ、イギリス系アメリカ人の祖父のことを思い出し、そして宇宙人と言われた自身の眼の色を思い出す。


生まれつきの、このグリーンがかった眼はあまり好きではなかった。

目立たないようにと、隠すように眼鏡を掛けたのも、前髪を伸ばしたのも、中学に上がる頃だった。


眼も、体も、全て自分が、俺は俺が嫌いだった。


……けれど、「自分らしくあれ」と紡がれる歌詞を聴く度に、俺は背筋を伸ばすのだ。


誰がなんと言おうとも自分らしくあれ。

そうありたいと、そんな風になりたいと、強く思う。