高校の入学式の日は、よく晴れた気持ちのいい日になった。
温かな日差し。桜の花がやわらかく咲いていて、微かに吹く風が少しだけ花びらを遠くに飛ばしているような……、そんな優しい日。
「いってきます」
入学式の朝、私は少し早めに家を出る。
駅を出て、真っ直ぐに高校へとは向かわずに、少しだけ遠回りをする。
着いた先は、大きな交差点。
先輩が事故に遭った場所。
大きな事故があったなんて、微塵も感じさせない綺麗な場所だった。それもそうか、もう1年以上経っているんだから事故の痕はもう残っていないんだ。
朝早いせいか、行き交う車も多い。
行き交う車の隙間から、向かい側の歩道の隅に小さな花束が置いてあるのを見つけた。
私も先輩への花束を持ってくればよかったと、少しだけ後悔した。
横断歩道の信号が、赤から青に変わる。
ピヨピヨと、ここの横断歩道は小鳥が鳴いているみたいな音を出す。
そう言えば、中学校の所の横断歩道ももう故郷の空は流れていなくて、とても簡単なメロディに変わってたっけと、ぼんやり思い出す。
私は、あの「故郷の空」の音楽がとても好きだった。
夏目先輩が歌って聴かせてくれた。