月がとっても

◇◆◇


先輩の部屋を出て、座敷の部屋へと戻る。
沙織さんは縫い物をしていたみたいで、私が声を掛けるとその手を止めてすぐに立ち上がってこちらに来た。


「あら、もういいの?」

「はい。ありがとうございました」

「……いいえ、こちらこそ来てくれてありがとう。今日、卒業式だったんでしょう?」

「はい」

「澪さん、卒業おめでとう」

「ありがとうございます」



そっと頭を撫でられる。

お母さんとは違う感覚、けれどとても優しい手。



「少し、背が伸びたかしら」

「ほんとう、ですか?」

「ええ。最初に来た時は、可愛らしい小さな女の子だったのにね。

今はとっても綺麗よ。
少しだけ大人っぽくなったみたい」


沙織さんが眼を細めて笑う。
その言葉に、私はどうだろうと思って曖昧に笑った。



だって、私が大人っぽいことなんてひとつもないと思ったから。


いつも自分に自信が持てなくて。


学校の勉強は相変わらずで。高校の勉強はついていけるのかなと、とても不安で。


ギターも毎日練習は続けているけれど、先輩みたいになれなくて。


お兄ちゃんとの関係も相変わらずで……。


成長したことなんて、これっぽっちもないように思えるから。



そう思っていると、「案外、自分自身では気付かないものよ?」と言って沙織さんが小さく笑った。