月がとっても


「夏目先輩」


もう一度呼び掛ける。
返事はないとわかっていても。


(もう一度、話がしたいです)


そう願わずにはいられない。


心のなかで思ったその時。


私の呼び掛けに応えるように、

からん と、テープから流れる音楽とは別に、微かな音が部屋のなかに響いた。



その音にはっとなって瞼を上げる。

からん ともう一度音が鳴って、音のした方を見ると、窓のカーテンが風に揺れ、机の上に置かれた空のラムネ瓶に当たって魔法みたいに音を鳴らしていた。




あの夜の……、

お祭りの夜に買ったラムネなのかな。


綺麗な深緑のガラス瓶。

先輩と同じ緑色。


からん、からん と、
出口もなくガラス玉が揺れている。

星が降っているみたいに……。



この音を聴いていると、あの日を思い出してとても懐かしい気持になる。それと同時に、なんだかとても泣きたいような気持ちになる。

寂しくて、泣きたくて、苦しくなるのに、私は耳を塞ぐ事も、窓を閉めることも出来なかった……。




どれだけその様子を眺めていたのだろう。

気がついた頃には、いつの間にかテープの曲が全て終わっていた。