月がとっても



そうして学校をあとにして、次に向かった先は夏目先輩のお家だった。


「来てくれるって思った」

迎えてくれた沙織さんはそう言って子供っぽく笑った。


お線香を上げさせてもらって、

……それから、


「少しだけ、夏目先輩のお部屋に入ってもいいですか」

「ええ。好きなだけ居てあげて」

お願いすると、沙織さんはわかっていたという風に頷いた。




◇◆◇


久しぶりに入った夏目先輩の部屋は以前とまったく変わっていなくて、とても懐かしい気持になった。

本棚にびっしりと詰まった本や、古いオーディオに、たくさんのレコードとか、飴色のギター。その全てが懐かしくて、胸の奥がつんと苦しくなった。

部屋の窓は開いたままで、冷たい風にカーテンが揺れている。
先輩の部屋はいつも窓が開いている。風が少し寒かったけれど、私は窓を閉めることをせず真っ先にオーディオに触れた。


持ってきたテープを再生する。
少しのノイズ音を混じえながらハードロックの曲が部屋中に流れ始める。



(先輩は喜んでくれるかな……)

ぼんやりと考える。
夏目先輩はなんて思うだろう。


喜ぶかな、

呆れるかな、


ううん。それよりもきっと……


『神崎も悪くなったな』

そう言って笑ってくれそうな気がした。




私は部屋の隅に小さく座り、そっと瞼を閉じる。流れ続ける音楽に耳を傾けながら。


瞼の裏に浮かんでくるのは、この部屋での色々な思い出。


ギターを弾いて、

昔話をして、

それから星を観た。


「夏目先輩」


ぽつりと呟く。

返事はない。


それもそうだよねと、小さく笑った。