月がとっても


最後に向かったのは、放送室。

放送室に入り、誰にともなく手を合わせる。手を合わせて目を瞑り、先日黒沢先輩に会った時に教えられたことを思い出す……。




……『そう言えば、澪知ってる?』

そう唐突に切り出して、黒沢先輩は私にこんなことを話してくれた。


『放送部の後輩に訊いたんだけど、放送室が春休みのうちに改装されて、機器も新しいのに入れ替えらしいの。

カセットテープはもう流せないんだって』

『じゃあ、あのカセットテープたちは?』

『全部処分されるって……』


……黒沢先輩はあえてこんな話をしたんだと思う。私が罪悪感なくこれを実行出来るように。


「ごめんなさい」

そう呟いて一本のカセットテープを制服のポケットにしまった。


こんな悪いことするのは、
たぶん最初で最後だろうと思う……。



「ちょっと借りるだけ……」

先輩の真似をしてそう言い訳をした。