月がとっても

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とうとう夏目先輩の歳を追い越してしまった3月。

卒業式のこの日は、どんよりと曇った空でとても寒い日になった。


式も無事終わり、先生や同級生との挨拶も済ませて、式に来ていたお母さんと合流する。


「澪、卒業おめでとう」

「ありがとう。お母さん」

「……中学生活、楽しかった?」

「うん。楽しかったかな」

「そう……」


お母さんがゆっくりと優しく私の頭を撫でる。それがなんだか、頑張ったねと褒めて貰えたような気がして、少しだけ泣きそうになった。


「もう、恥ずかしいよ」

泣いてしまわないように、そう笑ってお母さんの手から逃れる。そんな私の様子さえもお母さんは微笑ましそうにして眼を細めた。



「この後はどうするの?もう帰る?」


言われて周りを見渡すと、他の同級生の子たちは友達や先生や親しい後輩との別れを惜しんでいる。私にはそんな風にする親しい人はいなかったけれど、お母さんには「もう少し居る」と答えた。


「そう、じゃあ先に帰ってるけど……、あんまり遅くなっちゃ駄目よ?」

「うん」


お母さんには先に帰ってもらって、私はひとり校舎のなかに入った。



最初に向かったのは音楽室。

渡り廊下、

その次に図書室。

夏目先輩との思い出が詰まった場所をゆっくりと巡る……。