月がとっても



空を見上げたままでいると、夜空にそっと浮かぶ満月を見つけた。

去年、先輩と一緒に見た月。


綺麗だと、あの時先輩は言った。

"月が綺麗"と……。



私はそっと口を開いて息を吸った。


「なつめ、せんぱい……っ」


満月を見上げてそう呟いた。

口にした途端、堰を切ったように涙が溢れ出てきて止まらなかった。



「夏目先輩っ、夏目先輩っ、夏目先輩っ、夏目先輩っ……!!」


涙と一緒に、何度も何度もうわ言のように口から先輩の名前が零れ落ちる。

名前を呼ぶ度に、胸が張り裂けそうに痛かった。痛くて苦しくて堪らないのに、呼ぶことをやめられなかった。




1年かかった。

涙はどれだけ流せても、先輩の名前を口にすることはこの1年間どうしてもできなかった。呼びかけても返事が返ってこない現実を受け入れるのに、1年もかかってしまった……。



「夏目先輩……っ」

呼びかけても、先輩は此処にはもう居ない。手を伸ばしても、もう届かない。触れることは叶わない。



「夏目先輩、

わたし、ほんとうは……っ、」


そう口にして、
その続きは口に出せなかった。

ずっと抱えていた本当の心は、どうしても言葉には出来なかった。





言葉の替わりに、

もう一度だけ先輩を呼んだ。




「なつめ、せんぱい……っ」






 今夜も、

 月が綺麗です。