「……好き、なんですか?」
「好きになりたいとは思ってるわ」
好きになりたい。
私の問いかけに沙織さんはそんな風に言葉を返した。
「……私は、ずっと考えてました」
「望さんのこと?」
「はい。その、異性として好きだったのかどうか……」
口にした途端とても恥ずかしくなって、言い出したことをすぐに後悔した。けれど、なんだかこのまま話を聞いてもらいたいとも思った。
「望さんのこと、好きだったの?」
問いかけられて、私は俯いたまま首を横に振った。
「わからないんです。とても好きでした。でも、それが恋愛感情だったのかどうか……」
「そう」
きゅっと帯が締まる。
「……今、無理して答えを出さなくても良いんじゃないかしら」
「え…?」
「好きと思う気持ちに、無理して理由をつけなくてもいいのよ。ゆっくり考えればいいの。まだ若いんですもの。
信頼や憧憬からくる想いや友情以上の愛情を、転じてそれを"恋"と呼ぶ人もいるけれど、流されなくていいの。今はまだね。
それが恋かどうかなんてどうでもいいわ」
そんな風に沙織さんは話してくれた。その言葉に、なんだかとても呼吸が楽になった気がした。
「……ただ、その気持ちだけはどうか大事にしてあげて。忘れないでいてちょうだい」
「はい」
深く深く頷いた。

