月がとっても



セーラー服を脱いで、浴衣を肩に掛ける。


「よかったわ、丈は合ってたみたいで」

「背、伸びなくて……」

「あら、まだきっと伸びるわよ成長期ですもの。……髪は結構伸びたみたいね」


すっと梳くように髪に触られて、ほんの少しくすぐったい。


「本当は切りたいんですけど、母がもったいないって……」

「そうよ、もったいないわ。せっかく綺麗なのに」

「……沙織さんの長い髪も、綺麗でした」

「ふふ、ありがとう」



なのに、どうして切ってしまったのだろう。訊きたかったけど、なんだか訊いてしまっていいのかわからなかった。

そんな私の気持ちを見透かしてか、沙織さんは浴衣を着付けながら話してくれた。



「私ね、結婚するの」

「けっこん……?」

「そう。結婚」

「暁さんと、ですか?」

「……どうして、そう思うの?」

「なんとなく……」


なんとなくそう思った。すると沙織さんがまた小さく笑って、それから「当たり」と呟いた。髪を切ったのは、区切りやけじめみたいなものだと教えてくれた。



「軽蔑する?」

そう問いかけられて「いいえ」と答える。だって軽蔑なんてする理由がわからなかったから。


「ありがとう……。

私もね、本当にそんなつもりはなかったの。けど、あの人を、この家に独りきりにはしたくなかったから」


あの人、寂しがりなの。と、沙織さんは困った風にそう言って笑った。