夏休み前の終業式を終えて、早く帰ろうと校門を出たところで「澪さん」と名前を呼ばれて呼び止められた。
振り返ると日傘をさした沙織さんが校門を背にするように立っていた。私を待っていたのだと言って沙織さんは小さく笑った。
もう一年近く会っていなかったから、沙織さんの容姿は以前とは少し変わっていて、初めは誰だか気が付けなかった。
「久しぶりね」
「はい、お久しぶりです……」
いつも綺麗に結われていた長い艶やかな髪は短くなっていて、沙織さんが笑う度、切り揃えられた髪が口元で小さく揺れた。
「ね、あの約束覚えてる……?」
短い髪を揺らしながら沙織さんがそう私に問いかける。
「約束?」
唐突に問い掛けられた言葉にきょとんとなる。そんな私の反応を見て沙織さんはまた小さく笑った。
「来て」
そう言われ、誘われるままに沙織さんの車に乗せられる。
連れてこられた先は夏目先輩のお家だった。もうあの頃みたいなお線香の匂いは殆どしなくて少しほっとした。
約束って、また遊びにきてねと言っていたあの時のことなのかな。ぼんやりそう考える。
通されたのは先輩のお部屋の隣の部屋だった。
そう言えば、この畳の部屋には前に一度だけ入ったことがある。
そうだった。
あれは去年のこの日……
「澪さんに似合うと良いけど」
部屋の灯りがつくと一番に視界に入ったのは、掛けてあった綺麗な朝顔柄の浴衣だった。
「あ……」
そう。約束って、あの時の……。
一年前のあの日、夏祭りに行く時に沙織さんに浴衣を着せてもらった。その時に「来年も」と約束していた。
「ね、着て貰ってもいいかしら」
私が約束を思い出したことを感じ取ったように、彼女はそう言った。