月がとっても


神崎はオーディオから流れるハードロックをじっと聴いている。微動だにもせず。


感想を求めると、正直に「よくわからないです」と返ってきた。

確かにロックなのは神崎には向いていないのかもしれない。
ならばと思い、神崎の気に入りそうな別のアーティストの曲を流してみる。



「レオン……」

何曲目かの曲が流れたところで、神崎はふいにそう言葉を零した。
彼女も無意識に口にしてしまったのだろう。恥ずかしそうにすぐに俺から視線をそらして俯いた。


「レオン?

……ああ、レオンか。そう言えばそうだったな」


神崎の零した言葉に、1本の外国映画を思い出す。

掃除屋と少女の物語。映画のタイトルは『レオン』、そしてその映画の主題歌が今流れている曲だ。



「stingは好きか?」

「……スティング?」


問いかけるとぼんやりとした声が返ってきて、その反応に彼女が知っている彼の曲はどうやらこの1曲だけとわかる。

人生の半分以上損していると内心で密かに同情する。


「今度CD貸すよ。きっと気に入ると思う」


そう言ってみると、神崎は微かに眼を輝かせてこくこくと頷いた。