月がとっても

◇◆◇



「おかえり」

「た……、ただいま……」


家に帰るとお兄ちゃんもちょうど学校から帰ってきていた。つんとした素っ気ないお兄ちゃんの声が少し怖くて、目を合わせられずに返事をした。



「……大丈夫か」

ふいにそんなことを言われた。



「大丈夫って……?」

「夏休み入ったくらいから、元気がないだろう」



言われて、胸の奥の方が少しだけ苦しくなった。

私なんかのこと気にかけてくれていた嬉しい気持ちと、お母さんにもお兄ちゃんにも心配しか掛けれない弱い自分が心底嫌になった気持ち。

その二つが混じり合って、胸が苦しくなる。


「そんなこと、ないよ。……大丈夫だから」


息が詰まって、そう返すのが精一杯。


言いながら顔を逸らす。



お兄ちゃんに話し掛けられた……そのことは、本当はすごく嬉しかった。それなのに上手く会話が続くような言葉も出てこない。



『案外、映画とか音楽とか、共通の話題があれば話せるんじゃないか』


……以前、夏目先輩にお兄ちゃんのことでそう言われたことを思い出す。




先輩はああ言っていたけれど……、


(ごめんなさい。

今の私にはやっぱり難しいみたいです)