月がとっても


帰り際、


「また遊びに来て頂戴ね。望さんもきっと喜ぶでしょうから。旦那様も」


玄関先まで見送ってくれた沙織さんがそんな風に言ってくれた。

また来れるのかどうか今はわからないけれど、私は頷いて返した。



それから、


「……あの、」


「ん?」


「妊婦さん……は、」


訊いていい事か迷ったけれど、そう口から出てしまった。噂話で、先輩は妊娠中の女性を庇って亡くなったと言っていたから……。



「赤ちゃんも、お母さんもご無事ですよ。

事故のせいで予定より少し早く産まれてしまったらしいけど、どちらも命に別上ないと……」


「そうですか……」


沙織さんの言葉に、噂話が本当だと知った。あと、妊婦さんも赤ちゃんも無事でよかったと、少しだけそう思ってしまった。



そう思ったことを見抜かれてしまったのか、

「優しいのね」と、沙織さんがまた泣きそうな顔をして私の頭を優しく撫でた。





……違う。違う。

私は、優しくなんてない。



優しいのは、先輩の方。

先輩はまるで本当に幸福の王子さま。


私は、王子さまに寄り添うツバメにもなれないのだから……。