月がとっても



お線香をあげたあと、


「君は、望の恋人だったのかい……?」

ふいに、暁さんにそう問いかけられた。


「いいえ」と、私が返す。


すると、「そうか、よかった」と、そんな風に安心された。



「旦那様っ」

沙織さんが怒った風に声を荒げた。

その声に暁さんは「すまない」と呟いて、それから私に向かって言葉を続けた



「すまないね、僕はどうも言葉が足らなくて……、

ええっと……よかったと言ったのは、つまりなんだ…、君が望の恋人だったなら、普通よりもっと辛い思いをすることになったから……」


夏目先輩のお父さん…暁さんは、ぼんやりとそんなことを言った。

曖昧な言葉だったけれど、言いたいことはなんとなく理解出来た。


暁さんの言葉を聞きながら私は、14の子どもを亡くす親の気持ちはどんなものだろうと頭の隅で考える。きっと、私なんかには計り知れない、……深くて遠い感情がそこにある気がした。



でも、辛さの"普通"はよくわからない。

この辛さは"普通"なのかな……。



「澪さん、気にしないで下さいね。旦那様はいつもこんな調子なんですから」


考え込んでしまっていた私に、沙織さんは困った風にそう言った。