月がとっても



訪れた先輩のあの大きなお屋敷は、どこもかしこも線香の匂いがして。私はなんだかそれが少し嫌だった。



「あぁ、澪さん……、来てくれたのね」

迎えてくれた沙織さんはどこか痩せたみたい。……疲れたような、弱々しい笑みを浮かべていた。以前の凛とした面影はあまりない。





「ごめんなさい」


なにに対しての謝罪なのか、思わずそう言ってしまった。


連絡もなしに訪れたこと。

お葬式に行かなかったこと。

夏目先輩が亡くなったというのに涙が出ないこと。


……言葉の理由は、自分でもよくわからない。ただそう謝らずにはいれなかった。





私の言葉に沙織さんは何も言わず、ただ小さく頷いて優しく頭を撫でてくれた。


「さ、お上がりになって」


そう促されて玄関を上がり、沙織さんの後ろをついて歩く。

いつもの廊下を歩くと、床が小さく軋んで音を立てた。