月がとっても



放送室を出ると、神崎が物言いた気な顔で俺を見た。


やはり怒っているだろうかと考えて内心で少し面倒に思ったが、俺を見上げる神崎の眼はとても澄んでいて拍子抜けした。



「さっきの、」

「ん?」

「夏目先輩が持っていこうとしたテープ、どんな曲が入ってたんですか……?」

「聴いてみるか?」



尋ね返すと神崎は遠慮がちにこくりと頷いたので、そのまま音楽室へ行くことにした。


音楽室に入ると、さっそくオーディオに持っていたiPodを繋いだ。

その様子を見た神崎は「曲、持ってたんですね」と呟いた。


「テープに録音されたのを聴いてみたかったんだよ」


言い訳しながら音楽を再生させた。

レコードを聴きながらカセットテープに曲を落とすのと、MP3を数秒でダウンロードしてしまうのでは、曲の重みがまったく違う。

それが俺の親父の口癖で、俺もその影響から昔からレコードやテープで音楽を聴くことが好きだった。