月がとっても



クラスのHRが終わって教室を出ると、黒沢先輩が私の教室の前で立っていた。

「ちゃんとお別れしなさい」と言われて、そのまま半ば強引に夏目先輩のお家に連れていかれた。




私は、お葬式には行けなかったから。

あの日、
黒沢先輩から電話があったあの時……

ぼんやりとしか覚えてないけれど、お葬式の時間と場所とを教えられた。先輩のクラスで委員長をしていた黒沢先輩は、クラスを代表して行くと言っていた。



……けど、私は行けなかった。

あんなにお世話になったのに、優しくしてもらったのに……酷い事だとはわかっていたけど、受け入れられなくて受け入れたくなくて、結局行くことはできなかった……。




「黒沢先輩、ここで大丈夫です」


最寄りの駅の改札を出たところで、私は黒沢先輩にそう言った。


「ほんとうに?」

「はい……」


本当は、足取りは重い。お腹も痛い。

一人は怖くてたまらない。


けど、この道は一人で歩いて行かないといけないって思った。先輩に教えてもらった道だから。



「じゃあ、私はもう行くね」

「はい。ありがとうございました」


そうして黒沢先輩と別れ、夏目先輩の家までゆっくりと歩いた。