黒沢先輩はそれからも何度も家に来てくれて、閉じこもる私の話し相手になってくれた。黒沢先輩と話をするのはとても楽しかった。
一日一日が過ぎる毎に、夏目先輩との距離がどんどん離れていく気がして怖かった。そんな私の不安を、黒沢先輩は少しずつ掬い上げてくれる。
優しい声は、聴いてるだけでなんだかとても落ち着いた。
黒沢先輩のおかげで、夏休みが終わる頃には少しは笑えるようになれたし、食欲もだいぶましになった。
2学期が始まり、始業式の集会では、先輩の事故についての少しの説明と少しの黙祷の時間が設けられた……。
黙祷中の、呼吸が止まった様なしんとした体育館の空気がなんだかとても虚しく思えて。お腹がまた痛くなった。
集会が終わって教室に戻る時。
廊下を歩けば、誰も彼もあの事故の話をしていた。
———…「トラックが横断歩道に突っ込んできたんだってさ」
———…「信号待ちしてた車にぶつかって玉突きみたいになったって」
———…「近くに居た家族連れも巻き込まれて、子供と父親は亡くなったらしいよ」
———…「聞いた聞いた。夏目先輩って人が母親の方を庇ったって。
その人、妊婦だったみたいで……」
……ニュースでやっていたのかな。
私は、ずっとテレビや新聞を遠ざけていたから事故についてはなにも知らない。先輩がどうして亡くなったのかも……。
噂話の声が、お腹の穴を通り抜ける度に、穴はどんどん体中に広がってゆくような気がした。