たいやきを頭から食べる。

あんこと、厚めのふっくらとした皮が美味しい。甘いものを食べたのは随分久しぶりな気がした。


最近は毎日の食事さえ満足に食べれていなかったから。

お母さんはとても心配してるけれど、夏バテだと言えば無理に食べさせようとはしなかった。

夏バテなんて嘘に決まってる。お母さんもきっと気付いてるはず。

それでも納得したフリをしてくれる。なにも言わないお母さんのその優しさが、心の底からありがたかった。



……黒沢先輩もそう。

夏目先輩のこと、なにも言わない。黒沢先輩だって今とても辛いはずなのに……それなのに私なんかを気にしてくれて、家にも来てくれて……



「ありがとうございます」


思わず口からそう零れた。

すると黒沢先輩は少しだけ泣きそうな顔をして、それから眼鏡を掛け直しながら「いいのよ」とだけ返事をした。



なんだか少しだけ食欲が出てきて、食べかけのたいやきをもう一口かじる。


……すると、あんことは違う甘さが口のなかにじゅわっと広がった。

甘い果実……


「パイナップル……?」

飲み込んでからそう呟くと、黒沢先輩はいたずらが成功したような小さな子供みたいな表情で笑った。


「当たり。

お店のおばさんに頼んでひとつ入れてもらったの。びっくりした?」


「……どうしてパイナップルなんですか?」


「面白いでしょ?それに、美味しいかなって」


私が尋ねると、黒沢先輩が少し恥ずかしそうにして答えた。


黒沢先輩は普段はとても落ち着いてて大人っぽい先輩。だけど、この時はなんだか子供っぽく思えて、恥ずかしそうな仕草とか可愛くて。思わず笑みが溢れた。



私が笑うと、

黒沢先輩も一緒になって笑った。




ひとかけらのパイナップルで、

いっぱいいっぱい笑った……。