月がとっても


その時だった。

「貴方たち、此所で何してるの」

咎めるような声が聞こえた。


振り返るとそこには同じクラスの黒沢が居た。

赤毛に赤縁フレームの眼鏡。

校則をきっちりと守った優等生の風貌。


そういえば彼女は放送委員だったかと思い出す……。



「あら、夏目君じゃない。貴方こんなところで何しているの?」

「何って、逢い引き?」


おどけたように言いながら神崎の肩を恋人のように抱き寄せた。
そうすると神崎の肩がびくりと大げさに跳ねる。その反応に思わず笑ってしまいそうになった。


しかし黒沢は俺の言葉を真に受けることもなく、「放送室のテープを持ち出して?」と、持っていこうとしたテープを目ざとく指摘された。

降参するように俺は両手を軽く挙げる。


「ちょっと借りようと思っただけだよ」

「駄目よ。放送室の備品なんだから、勝手に持ち出したりしたら」


言いながら手を差し出されれば、返さざるをおえない。
名残惜しく思いながらテープを渡すと、テープを確認した黒沢は呆れたように呟いた。


「ヤードバーズって、あなた一体いくつよ」

「黒沢と同い年だよ」

ほっといてくれとばかりにそう言い返したが、このバンドが通じるあたり黒沢も相当なものだろう……。