夏目先輩が夜空に向かってそう零す。

私は背伸びをするように空を見上げた。
カランと下駄が鳴る。背伸びをすると鼻緒が当たって少しだけ痛かった。


夜空を見上げた時には雲が伸びて月を覆い隠してしまっていて、先輩が綺麗と言った月はほとんど見えなくなっていた。


「隠れちゃいましたね」と私が言うと、


「漱石は嫌いか?」


そんな風に返された。

私は先輩の言葉に、先程の言葉の意味をすぐに理解した。



“月が綺麗ですね”と、

I Love Youをそんな風に訳した作家が、かつてこの国にいた……。



揶揄われてることなんてわかってる。


でも顔がどんどん熱くなる。きっと頬は真っ赤になっているに違いない。

わかってるはずなのに、ドキドキと胸の鼓動が速まってしまう。



だって、

まるで告白されてるみたいだから……。





「……わ、私は太宰治の方が、好きです」



なんだか悔しくて、

口から出たのはそんな言葉だった。