月がとっても



「放送室」

「放送室?」

「放送室までちょっと付き合ってくれ」

「放送室に、ですか?」


用件を伝えると神崎は不思議そうに首を傾げた。聞き返す神崎の言葉は無視して、そのまま放送室まで向かった。




放送室のなかに入ると、見慣れない機材だらけなせいか、神崎は珍しそうにきょろきょろと部屋を見渡した



「そこ、見張ってて」

「見張り?」

「誰か来たら声かけて」


それだけ言って俺は部屋にあるカセットテープやCDの物色を始めた。

CDは最近のアイドルの曲がダビングされたものや、クラッシック、教材用らしい朗読のものがある。

その一方で古いカセットテープは、60年代のバンド名でひしめき合っていた。御丁寧にテープには細かく曲名まで手書きで書かれている。当時これを作った人間はよほど熱心なファンだったのだろうと想像する。



「ヤードバーズの輸入盤まである……」


思わず感動してそう呟く。
気になったもの拝借しようとすると、神崎は「あっ」と声を上げた。



「泥棒ですよ」

「ちょっと借りるだけさ」


俺の言葉に神崎は不満気に唇を尖らせる。

はからずも共犯にされてしまったことに気付いた神崎はなにか言いた気だったけれど、俺は気にせずそのまま他のテープに視線を戻そうとした。