離れた手
優の背中
階段をどんどん下りて行ってしまう優を、
追いかけた。
「ねぇ......何かあった?
何か嫌なこと言われた?」
隣からそう言っても、
優はこっちを向いてくれなかった。
私の顔を見てくれなかったら、
言葉が伝わらないじゃん......
バス停まで来ると、もうすでにバスが待っていて、
そのまま乗り込もうとする優の腕を掴んだ。
入口の前で立ち止まった優は、
私の腕をそっと引き離した。
「どうして......?」
優はまた首を振った。
優は一度下を向くと、
くるっと向きを変えてバスに乗り込んでしまった。
バスの中を覗くと、
優は背中を向けてつり革に掴まっていた。
こっちを向いてくれないと、
何も伝わらない。
どんなに大きな声で叫んでも、
優には何も伝わらない。
こっち向いてよ......優......
心の声は、優に伝わるはずもなく、
バスのドアは閉まり、
ゆっくりとバスが動き出した。



