4月
優は大学生になり、
私は高校2年になった。
優は大学の講義では、FMマイクというのを先生につけてもらって、
FMの電波で直接優の耳の機械に先生の声が届く、
FM補聴システムというのを使っている。
そのせいで、雑音の中でも講義の内容がよく聞こえて、
友達とも雑音の多いところでは、iPadを使って会話したり、
ノートテイクという要約筆記のボランティアさんに、時々入ってもらったりと、
一般の大学に入ったけど、
優なりに、一生懸命頑張っているようだった。
私は駅から優の部屋の行き方を覚えて、
学校帰りに毎日寄っていた。
6月を過ぎると、
優の部屋に大学の友人たちがたまるようになり、
行くたびに、「こんにちはー」と、数人の友達に挨拶をされるようになった。
優が聞こえる友達の中に、普通に溶け込んでいることが、
なんだか嬉しくて、
本当に、よかったな.....と、友達とのやり取りを見て感じていた。
優の大学の友人たちは、私が来ると、
少しだけ話してすぐに帰っていく。
「ごめんね、優。せっかく友達が来てくれているのに、
私が来ると、遠慮させちゃうよね」
私は小さなキッチンでコップを洗いながら謝った。
優も隣にきて、冷蔵庫からペットボトルを出した。
「大丈夫だよ、みんな良い奴ばかりだから。
気にしなくていいよ。
それに......」
優は洗ったコップを二つ取り出して、
ペットボトルのお茶を注いで、私にひとつ差し出してきた。
「それに?」
そっと受け取ると、優は私の頭に大きな手のひらをのせた。
「俺は、二人になりたいし」
そう言って、私の前髪をくしゃくしゃっとした。