「痛かったよね.......こんなに、包帯ぐるぐる巻きにして.....」
涙をこらえて言った私に、優は優しく笑った。
「包帯は 手術で耳の中に入れた機械と
側頭部の頭蓋骨を薄く削って
その上にのせた受信機が飛び出してこないように
包帯でぐるぐる巻きにして 圧迫して押さえているだけだよ。
傷自体は小さいから」
側頭部の頭蓋骨.......
「頭の骨を.......削ったの?」
優は目線を下にして、頷いた。
「そのせいで 頭をぶつけないようにって
小さい頃からずっと すごい親が心配して.......
右側の頭をぶつけると 埋め込まれた機械が壊れるだけじゃなくて
そこだけ 骨が薄くなっているから 危険らしい。
だから ドッジボールはいつも外野だったし
頭をぶつける危険のある運動は 親から絶対に禁止されてた。
音と引き換えに 我慢しなくちゃいけないこともあるんだよ」
優は少し切なそうに言うと、俯いてしまった。
「小学校の時は 休み時間とか 体育の時間とか
普通になんでも参加できる子が うらやましかった。
なんで俺は.......」
私はアルバムを閉じて、テーブルの上に置くと、
膝を立てて、優の頭を自分の胸に抱きしめた。
辛かったよね......
自分の意思ではなく、自分の頭に埋め込まれた機械。
音を手にした代わりに、いろんな我慢と、いろんな偏見にさらされて......
ぎゅっと抱きしめていたら、
優も私の腰に手を回してきた。
そして、絞り出すような小さな声でつぶやいた。
「聴こえる耳で 生まれたかった......」



