玄関入ってすぐの扉を優が開けると、
広いリビングが見えた。
中に入ると、優はリュックをソファーにどさっと置いて、
「座ってな」と言って、
ゴツめの黒い腕時計のついた方の手で、
私の頭をポンポンと撫でて、
カウンターキッチンの中に入って行ってしまった。
私はバッグをソファーの横に置くと、
紙袋を持ってカウンター越しに優を見た。
そして、紙袋から箱を出して、
「私が切ってもいい?」と聞くと、
2個のグラスにペットボトルのお茶を入れようとしていた優が、
笑いながら頷いた。
そのままカウンターを回って、中に入ると、
優がまな板と包丁を出してくれて、
私が手を洗っていると、
優が食器棚からお皿を出した。
箱の中からロールケーキを出すと、
包丁を持ち、
隣から覗き込んでいる優に、
「どのくらい、食べる?」と聞くと、
私の口元を見た優は、
私の後ろに回ってきた。
そして、カウンターに左手をつくと、
右手は、
包丁を持つ私の手の上から、そっと一緒に握ってきて、
後ろから私を包み込むように立った。
びっくりして後ろを振り向くと、
私の顔のすぐ横に、
包丁を見つめている優の顔があって......
恥ずかしくなって、ばっとロールケーキに目を戻すと、
包丁が少し横に動き、
「このぐらい」と耳元で優の声がして、
ぞくぞくしてしまった。
そして、私の手をぎゅっとして、
一緒に切った。



