「あすかちゃん?」
お母さん.....かな......
「あの、えっと.....はじめまして」
ぐっと頭を下げると、「わあ!!いらっしゃい!!」と、
かわいい高い声がしてきた。
ゆっくりと顔を上げると、
おかあさんは、スリッパを出してくれた。
「ゆっくりしていって。
ごめんなさいね、留守にして。
これからお兄ちゃんたちの、式場選びに付き合わなくちゃいけなくて。
美音ちゃんがどうしても私も一緒にって言うから。ふふふっ」
バタバタとお母さんも靴を履いて、
「優、夜遅くなるかもしれないから、戸締りしっかりね。
夕御飯、冷蔵庫に入っているから、温めて食べて。
じゃあ、あすかちゃん、またね」
と、手話をしないで、口の動きだけで、優に伝えると、
お兄さんと一緒に玄関から出て行ってしまった。
シーンとした広い玄関。
優、夜ご飯ひとりなんだ。
あれ、ちょっと待てよ。
ていうことは......この豪邸に二人きり......
顔が熱くなって、下を向くと、
ロールケーキの入った紙袋が目に入った。
「あ、渡すの忘れた」
そう思って、優に紙袋を見せると、
優は、ふっと笑って、
「二人で食べるか.....」
そう言って、靴を脱いだ。



