水族館の帰り道、
またバスに乗って駅まで行き、
電車に乗った。
帰りの車内は少し混んでいて、
優は私を扉と椅子の角に立たせると、
私の前に立った。
今日はゆったりと、首周りの少し広く開いたTシャツを着ているから、
目の前に、綺麗な鎖骨がよく見えて、
ドキドキして困った。
目のやり場に困って、少し下を向いたら、
優が顔を覗き込んできた。
ちょと斜めに見上げられて、
その上目な視線、
短く切った髪、
明らかに頬が熱くなっていくのがわかった。
そんな私を見て、優は噴き出して笑って、
私の頭をポンポンと2回撫でると、
ぎゅっと手を繋いでくれた。
今日はいっぱい一緒にいたから、
いつも以上に離れたくないと思ってしまった。
明後日から優は東京に行く。
夏休みはほとんど会えない。
こんなに毎日会っていたのに、
会えなくなったら私......
明後日から大丈夫だろうか......
電車から降り、駅から出ると、
もう外は真っ暗だった。
家まで薄暗い中、手を繋いで歩いた。
この暗さでは、口を読みにくいだろうし、
手話をするにも、繋いだ手を離したくないし、
やっぱりよく見えないだろうし、
結局、何も話さないで家まで歩いた。
家の前に着くと、
「お母さんに 挨拶するよ」と言って、
優は私から手を離した。
《ありがとう》と手話をすると、
優は小さく首を振って、
そして一緒に玄関の中に入った。
お母さんを呼びに行こうと、靴を脱ごうとしたら、
お母さんがリビングから出てきた。
私はまた靴を履いて優の隣に立つと、
お母さんは「おかえり」と言って、
玄関マットの上に、私のスリッパと、
お客さん用のスリッパを出した。
お母さん......
お母さんは優を見ると、
口の動きをはっきりと、ゆっくりと優に話しかけた。
「夜ご飯、食べていって。
お母さんには、言ってあるから。
もう少しでできるから、
あすかの部屋で、待っていて」