「成海さーん」
幼稚園の先生が、二人を呼ぶと、
二人一緒に私の方に振り向いた。
私はその二人の顔を見て、
ばっと下を向いた。
どうしよう、どうしようと、体が震えた。
「あすかちゃんのお母さんです」
先生にそう紹介されて、私は下を向いたまま頭を下げた。
そのまま顔を上げることができなかった。
成海くんたちは、何も言わなかった。
「ママー!」
私の足元にしがみついてきたあすか。
思わずその手をぎゅっと握ると、
「すみません。失礼します」と、
あすかの手をぐいぐいと引っ張って、園庭を出た。
「ママ?もっとゆうちゃんと遊びたかった」
「帰るわよ」
自転車の後ろにあすかを乗せると、
思いっきりペダルを踏み込んだ。
あすかをゆうちゃんに近づけちゃいけないと思った。
成海くんたちは、自分の大切な息子に、
私の子が近づくことを、絶対に許さないと思う。
あすかにどう説明しよう。
家に帰ると、おやつを食べているあすかの前に座った。
「あすか、ゆうちゃんとお友達になるのはやめよう」
あすかは、お菓子を持って首を傾げた。
「どうして?せっかくお友達になったのに。
あすか、ゆうちゃん大好きだからお友達やめるのやだなぁ」
「とにかく、ゆうちゃんとは離れなさい。
他にもいるでしょ?
同じクラスの子とか。
ゆうちゃんは男の子なのよ?
女の子とお友達になりなさい」
「ママ?ゆうちゃんは女の子だよ?
あすかは、ゆうちゃんがいいなぁ。
だってね。すっごく優しいんだよ。
あすかが何しても、笑ってくれるんだよ。
あすかが粘土で作ったクマを、
みんなはブタって言ったんだけど、
ゆうちゃんは、最初からクマってわかってくれたんだよ。
上手って言ってくれたんだよ。
あすかは、ゆうちゃんが好きだなぁ」



