優は、一度下を向いて、
また顔を上げ、窓の外を見た。
「それなのに俺......
お兄ちゃんが頑張っているのに
俺は どんどん卑屈になっていって......」
優はまたこっちを向くと、立ち上がって、
私の左側に座ってきた。
そして、私の手を取ると、
自分の右耳にその手を当てた。
「ここに 機械が埋め込まれているんだ」
えっ、機械.....?
戸惑いながら指先で耳の後ろをなぞると、
こりこりと、指先に硬いものが触った。
これが、機械......
「中の機械に、音を送る機械を外の耳につければ
ほとんど聴こえない耳が かなりよく聴こえるようになる
このぐらい静かな環境なら 手話なしで 会話ができる」
えっ、手話なしで会話ができるの.......
「外の耳につける機械は?」
どうしてそんなによく聴こえる機械があるのに、
つけないんだろうって思った。
「俺は 中学からろう学校に入って
音を捨てたんだ」
音を.......
そっか......
小学校の頃、辛い経験をしたって聞いてたから、
そのことで、音を捨てたくなっちゃったんだ......
「でも あすかと出会って もう一度 音を聴きたいと思った
あすかの声を聴いて 会話をしたい」
優......
私は隣から優の手をぎゅっと握り締めた。
「でも......
それには
再手術が必要なんだ」



