「あ。ご、ご、ごめんね!
次の子が来たから......」
先生は、真っ赤な顔をして、オロオロしていた。
優は、すっと私から離れてさっきまで座っていた椅子から、
リュックを取って背中に背負った。
「こっ、こっちこそごめん......」
私も頬を熱くしながら、椅子から立ち上がり、
バタバタと楽譜をたたんで、
バッグにしまい肩にかけた。
「ありがとう、先生」
なんだか恥ずかしくなって、ぐっと頭を下げた。
「あすかちゃん、優くん」
先生に呼ばれて顔をあげると、
先生は私と優を交互に見て、
目を潤ませていた。
「今、二人でいられる時間を、大切にしてね。
毎日、一瞬一瞬が、二人同じ思い出になっていくなんて、
素敵でしょ?
ね。後悔しないように、今を大切にしてね」
先生......
私たちよりも、ずっと背の小さい先生が、
なんだか今日は大きく見えた。
「うん」と、頷いてから優を見ると、
優も頷いて、
先生は、ゆっくりと扉を開いた。
「また来週ね、気をつけて帰ってね」
「うん。先生ありがとう」
私はまた頭を下げると、
優と一緒に廊下に出て歩き出した。
受付にまた挨拶をして、エレベーター前に行き、
ボタンを押すと、
優が、そっと手を繋いできた。
ぎゅっと握り返して、隣から優を見上げると、
優は下を向いて笑って......
エレベーターの扉が開くと、手を繋いだまま一緒に乗り込んだ。
優がボタンを押して扉がゆっくり締まると、
ふわっと私の左頬に、温かい優の手のぬくもりを感じて、
優の方を見た瞬間、柔らかく唇を塞がれた。
ふっと唇が離れ、目の前の優を見つめると、
優は下を向いてしまって、左頬から手を離した。
その時、一階でエレベーターが止まり、
ゆっくりと扉が開いた。