そう言ってまた、楽譜を見つめていた。




そして譜面台を立てると、楽譜を持って私の右隣に来て、

譜面台に楽譜を広げ、座っている私の後ろに回ってきた。




そっと私の左肩に左手を乗せると、


優は右手を伸ばして鍵盤に人差し指を置いた。


私の顔のすぐ右側に、優の顔があって、


思わず優の顔を見てしまったら、

間近で目が合って、


ぱっと鍵盤に目を戻した。



その時、優が鍵盤を押して、音がひとつ防音室に響いた。




そして、ひとつ鍵盤をずらして、また隣の音がひとつ響いた。




またその隣の音を響かせ、ゆっくりと鍵盤から指を離すと、



ぎゅっと後ろから抱きしめられた。





私を抱きしめている、袖をまくった優の腕を、そっと抱きしめると、


優の体温が伝わってきて、


なぜか泣きたくなってきて、ぎゅっと目を閉じた。



優は、何も言わなかった。




しばらくずっとそのまま、何も言わずに


私を抱きしめていた。









トントン トントン



やばい、先生だ……




うしろから扉を叩く音がして、私が優の腕をポンポンと叩くと、

私の真横にある優の顔がふっと上がって、

私を間近で覗き込んできた。


違う、違う……先生が……


そう伝えようと思ったんだけど、


目の前で、ちょっと横目で私の顔を覗き込む優の綺麗な顔に、


きゅんきゅんしちゃって、


何も言えなくなってしまった。








その時、ガチャっと後ろの扉が開く音がして、


私が首だけ後ろを向くと、


優も振り向いて、


ゆっくりと私の体から腕をほどいた。