ピアノに体を寄せて、両腕をピアノの上に乗せている優は、


ゆっくりと頷いて、私が弾くのを待っていた。




私の好きな曲を、聞こうとしてくれているんだ。





私の好きな曲は......


そう思い浮かべた時に、すぐに浮かんだ曲。


私はバッグの中をごそごそと探して、



一番好きな曲の楽譜を取り出した。




そして譜面台をたたんで、


ピアノの上、優の目の前に楽譜を広げた。




「これ、歌なんだけど。




すごく歌詞が好きで、



今から弾くから、歌詞を見ていてね」


【歌詞】という手話がわからなくて、指文字で伝えると、優はじっと楽譜を見つめた。



そのままゆっくりと弾き始めると、


優は顔を上げて、少しだけ笑って、


また楽譜を見ていた。




この歌が、優に届くといいなって思った。



毎日毎日、君を想い続けているというこの歌が......




鍵盤を見ては、ちらっと優を見て。

最初は楽譜を見ていた優が、

途中から顔を上げて、目が合うようになって......


その真剣な眼差しに、ドキドキした。




ゆっくりと弾き終え、膝の上に手を置き、
上目でそっと優の反応を見ると、




優は、八重歯を見せて笑っていた。




「俺も この歌 好きになったよ」