優は頭を下げると、私の顔を見て、
小さく頷いてから保健室から出た。
星野先生は、優のお兄さんを知っているんだ。
ていうことは、桜木先生のことも......
「先生、優のお兄さんと、私のピアノの先生が結婚するんだけど、
桜木美音って知ってる?」
「えええええ!!!!!」
先生はかなり驚いていた。
「あの二人、続いていたんだ......すごい!!
ピアノの先生になったんだ......ピアノ上手だったからな......
桜木さんにおめでとうって伝えておいて!
今度よかったら、お茶でもしようって」
「わかった。伝えておく!
じゃあ、先生またね!」
私も保健室から出て優の隣に行き、一緒に玄関へと向かった。
自転車置き場から優が自転車を出してくれて、
一緒に校門を出ると、すぐそばにあるバス停で止まった。
私がハンドルに手を添えると、優がそっとハンドルから手を離した。
「明日も、会えるよね」
優に口だけで伝えると、優はゆっくりと頷いた。
「ずっと一緒にいられるよね」
また、優は頷いてくれた。
薄暗くなってしまった空
誰も出てこない校門
ふたりだけのバス停
ズボンのポケットに両手を入れたまま、
少し屈んだ優の顔がふっと近づいてきて、
目を閉じるまもなく、
私の唇に、優の唇が触れた......
ハンドルを持ったまま固まってしまった。
唇がゆっくりと離れると、
間近で優と目が合って、
優はすぐに目をそらして下を向いてしまった。



