そして、世那はおもむろに、濡れた服のポケットから紙切れを出した。
雨を吸い込んだ紙は、少しふやけている。
「メイが、大雨のときに傘を差し出してくれた、女の子の話をし始めたんだ」
世那はうつ向き加減のあたしの手に、その紙を握らせた。
あたしの手のなかで、ふやけた紙の水分が染み出た。
「それでメイが出した傘、オレどこかで見た気がして、その女の子のこと、どんな子なのか聞き出したんだ」
「うん…………」
「そしたら……澪ちゃんの名前を、メイが笑顔で言ったんだ。ホント、嬉しそうに」
あたしは、瞬きも忘れたように、じっと自分の傘を見つめた。
みるみるうちに
あの日の映像が、頭の中をぐるぐると流れ始める。
「それでオレ…快斗もメイも、気付いたんじゃないかと思って、すぐに澪ちゃんに電話したんだけど」
「けど………オレ、言わない方が良かったな」
ゆっくりと漏れた、世那のため息。
あたしは、手のなかにあるふやけた紙を
ゆっくりと開いた。


