「急いで帰ろうって思ってたんだけど、なんか…ずぶ濡れで地べたに座り込んでる女の人を見掛けて。
その人に、傘あげちゃったんだよね」
あたしがそう言うと
快斗がテーブルの上の名刺を手に取った。
「あぁ、それがメイって奴?」
「そう。バンドやってるんだって」
「……ALICE? 知らねーわ。
ご丁寧に、名刺までくれたわけ?」
煙草の煙を吐きながら笑った快斗は、
その名刺を、またテーブルの上に戻した。
「良かったら、ライブ来てだって」
「へぇ~。行ってみれば?
おまえ、友達もいねぇんだし、そいつと仲良くなってこいよ」
「…なんか、皮肉っぽい」
クスッと笑った快斗に、あたしは口をとがらせた。
すると、煙草を手に持ったまま
快斗があたしの隣に、勢いよく座った。
「皮肉なのは、澪の方だろ?」
ソファの背もたれに腕を掛け、
あたしを見つめる、快斗の黒い瞳。
あたしの心臓が、騒ぎだした。


