煙草とキス


「こちらこそ、見苦しい姿を……。
すみませんでした」




「いえ……」





彼女は厚底の革ロングブーツを履いて、あたしより背が高く見えたけど……



本当は、結構もっと背が低いだろう。





ざっと見て、155㎝あるかないか。




体も細くて、なんだか


か弱そうに見える。







「何があったか分からないですけど…、大丈夫なんですか?」




ペコリ、と頭を下げた彼女に



あたしは問い掛けた。





すると、彼女は口元をゆるめた。




「ちょっと、辛いことがあって……。
でも、もう全然平気です。
なんだか、心配させちゃってすみません」




「そうですか……。なら、良かったです」






あたしは、そう彼女に言い、その場を離れようとした。






……と、急に彼女に呼び止められた。





「あのっ、お名前教えてください」





彼女はまた、深く頭を下げる。




そんな健気な彼女に






「椎名 澪です」と、返した。






すると彼女は、静かに微笑んでくれた。










彼女が言った、『全然平気』なんて言葉、嘘だと思う。





それでも、あたしが深く問いつめる必要はない。




だからあたしは



ただ、『良かった』としか言わなかった。