煙草とキス




ROCK-RAYと、大きな彫刻風の文字がプリントされ


黒地にネオンカラーの星がちりばめられている、スタッフTシャツを着た男の人がツカツカとこちらに来た。




首からスタッフネームを下げて


何故かキャップを深く被り、うつむいたまま向かってくる。




少しばかり“怪しい”と思ったのは、あたしだけではないだろう。



ひかりさんは、少し後退りしたし、並んでいる人のほとんどが、彼を目で追っている。





なんだろう、と思った瞬間だった。








「澪ちゃん、世那だよ」






突然あたしの前で立ち止まった彼は


あたしの耳元で、そう囁いた。





無論、驚かないはずもなく。




「せっ……世那!?」






あたしは声を裏返しながら、大声で世那の名を呼んだ。



そして、キャップに隠された顔を


あたしは半信半疑、覗き込むと……







「馬鹿!大声出すなよ…」




かすれた声で世那は怒ると


いきなりあたしの腕を掴んで、走って入口の方へ向かう。





完全に思考回路はパニック状態。




世那に手を引かれている意味が、まったく分からなかった。