煙草とキス





上京して、もう4年半……



5年近くは経って、数えきれないほど様々なライブハウスに足を運んでるけど






こんなことは、初めてだ。






スタッフ自ら、出待ち場所へ……



しかも、変更にまでなった秘密のところに連れて行ってくれるなんて。








「あっ、ここです」




連れて来られたのは



このライブハウスの裏側にある、錆びついた小さなドアの前だった。





「前はここが出待ちスポットだったらしいんですけど、今は新しく増築された方にある入口がスポットで」




「そうなんですか…」





「……あっ、北澤美季って言います!
突然連れてきちゃって、迷惑でしたよね」




「そんなこと無いですよ?
むしろ、あたし…メイに会いたかったから。教えてくれてありがとうございます」




「そう言ってもらえると……。
じゃあ、もう行かなきゃいけないんで失礼します!」






ニコッと微笑んだ彼女は



あたしに頭を下げてから、走ってまた戻って行った。






「あっ、名前言うの忘れた……」






あたしは、彼女がいなくなってから、自分の名前を教えなかったことに気づいたけれど



彼女を追いかける気はしなかった。