【短編】もう少しだけ



――ガラガラ



どこかの教室の扉の開く音がして足音がした。

その音が近づいてくるのがわかった時、ゆっくりと顔を上げる。



そこにはプリントを拾って私に手渡す真祐が居たんだ。



え……?



真祐を見上げたまま止まってしまった。

私から目を逸らさずに、



「いらないの?」



そう言ってプリントをヒラヒラさせた。



「あっ、ありがとう」



プリントを受け取ると歩いて行ってしまった。


やっぱり真祐の目は冷たくて。
前みたいに優しくはなかったけれど。


今、一瞬……笑ってくれたのよね?


ニッて笑ってくれたよね!?


やっぱり、私このまま終わっちゃうのは嫌だよ!
そう思った時には、廊下にプリントを置いたまま走り出していた。



廊下を曲がって階段を駆け下りる。
下に着くと、真祐の背中が見えた。



「ま…! 真祐……」



大きな声で呼ぶはずだった名前は、
小さな囁きに変わってしまった。

少し離れたところから真祐の名前を呼んで駆け寄る、また違う女の子。


簡単に腕を絡めて、甘い声で真祐に話しかけていた。



私には出来なかった事。
そんな簡単に出来るだなんて羨ましい。