【短編】もう少しだけ



――カタンッ



小さく机が音を立てた。

そのまま私の前に立ち、近寄る真祐。

何故か下がってしまう私。


何度も
『茅乃、嫌?』
って聞かれて首を横に振った。


でも最終的には出来なくて、真祐は教室を出て行ってしまったんだ。




久しぶりに1人で帰る家までの道のり。

下唇をギュッと噛み、なるべく上を向いた。


真祐のあんなに恐い顔を見たのは初めてだったし。
それが私に向けられたものだなんて信じられなかった。



どうして、そんなにキスに拘るのかがわからない。

だって、今までだって凄く楽しかったし、それでいいじゃない。



キスしたら何かが変わるの?



でもキスしなくて、何かは変わったよね。



キスすれば良かったのかな?

だけど、出来なかったんだもん。
恥ずかしくて顔は赤くなるし。
真祐の目は見れなくなっちゃうし。
耳に入るのが、私達だけの息遣いだし。


胸が痛くて痛くて。
うるさくて、速くて。



ごめんね、真祐。