【短編】もう少しだけ


キスしようとしただけで、これじゃ駄目だよね。

まだキスすらしてないのに、したらどうなるんだろう……。

ベットに置かれたクッションを何となく手に取り、唇をあててみる。



キスの練習。



って、私は馬鹿か?
何しちゃってんのよ!?

恥ずかしいっ!

真祐とキスだなんて…有り得ないんだからっ!


今日、女子が変な事言うから。
そうよ!
それだけよね?




「あれー? 今日は珍しく真祐君の声がしないねー」



次の日、学校で女子が笑いながら言う。


そのセリフを聞きながら、
言われなくても気づいてるっちゅーの!
と、思っている私。


どうして真祐は来ないんだろ。

朝から何度も何度も思っている事。

私から、真祐のクラスに行けばいいんだろうけど、
何だか恥ずかしいし、それに今まで1度も行った事なんてない。

だから、どうしていいかわからない。


真祐の事になると“わからない”そればっかりだな。



結局、その日は1度も来なかった。



いつもなら、朝のHR、
移動以外の休み時間、
お昼が終った後、放課後。
迎えに来てくれるのに。


周りからは
『喧嘩したの?』
なんて聞かれるし。


別に喧嘩なんてしていない。


ただ、キスを拒んでしまっただけ。

ただ、それだけ。