主宰された張り込みの応援に駆り出されて、好き放題に暴れ逃げようとする被疑者を、特筆破天荒に確保してしまって、少々注目を集めてしまったショッピングモールでの逮捕劇‐ランデブー‐。国際犯罪組織による劇場型犯罪の摘発をちゃんちゃら可笑しく取り沙汰されないように、ピーチクパーチク囀ずらせることなく感服させようと、撤収作業の見せ所中の片隅。
中央にあるアーチファクトで舶来品‐モニュメント‐的な噴水の向こうに見掛けた母親とその子供。保護命令の手続きを手伝った縁があって、今現在はどうしているのかとそこはかとなく気になって声を掛けたかったから、張り込みのペアを組んでいた彼に待機場所を離れる旨を告げ、何かあったら呼んで欲しいと願い出た。

足早に親子の元へ向かう途中で、曲者の意を汲み取ったノッチ音が撃鉄を起こす。親子の左斜め前に見えているキッチンカー周辺が訝しめにざわめいた。
旋盤の看板が倒れ飲食用の椅子が旋回しながら吹っ飛んで、その原因である男が手にしている物に周囲の人々が悲鳴を上げ、それぞれが勝手に動いて騒然となる至高のリバーブチューン。
男は鈍く光る刃物をキャタピラの如く振り回しながら、親子の元へ単刀直入かつ一直線に向かう。男の正体は、地雷をおくようなテクニックで行動を制限し、鎖を架けるように親子を自分の理想に仕立て、金をふんだっくって貢がせる夫であり、活躍しろと言うくせに弁えろと言う父親だ。
悲鳴を聞いた他の捜査員もこちらへ向かっているだろうけれど、距離があってベルヌーイの定理であっても間に合うはずがない。

逮捕術が得意ではないから大部屋俳優ばりに苦戦を強いられるだろうけれど、才媛とはなれなくとも何とか膠着状態には持っていきたい。まだ間に合いますその刃物を渡してくださいと交渉を持ち掛けても、短気は損気といった思索の言葉など、興奮している男には届かないだろうから。
私が細大漏らさず迎撃しなければ、明日を待たずに早い者勝ちと襲われて、新境地でリミックス最中の親子に今日すら来ない。

腰が抜けてしまったのかその場から動かない親子を後ろへ突き飛ばすように引っ張り、振り下ろされた刃物から庇う。切られてしまった肩は知らんぷりして、背中を見て学んで技を盗む見取り稽古は上手くいったようで、殺意に満ちた視線に対して牽制を先取出来ている。
親子と男の間に入り両者を離れさすことには成功したけれど、出過ぎた真似で邪魔をするならお前から殺してやるとばかりに、振り回される刃物によって男の間合いにも近付けず体勢を崩されてしまった。
片膝すら付けないままの私の横を、すり抜けようとする刃物を掴んで何とか阻止する。

止めてと戻りたくないと一緒には居られないと、子供を守るように抱き締めて、逃げ場にしか救いが無い急迫不正の母親は、それしかないならいらないと震える声で叫ぶ。
今はこのままでいいと思っていても、この先もずっとこのままでいいと思い続けられる確証なんか、安心したくて思い込みたいだけで正当防衛を逆算したってない。飼い殺しの奉加帳に見込まれて、マルチ商法の盗作にネズミ講の名義貸し、御眼鏡に適う度に情緒不安定さ‐ランサム‐が片手間に増えていく。逃げ場のないところで平伏でも投石でも騒ぎを起こしたくはないけれど、せきばらい一つにだって怯えたくもない。
論より証拠と拒否したことが挑発を焚き付けた形となって、掴んだ私の手を真っ二つにする勢いで振り払い、男は倒れ込んだ私に見向きもせず、親子に一刀両断の照準を合わせる。

男が力任せに突き立てた先で、私のお腹から刃物へ伝った血がポタポタと滴り落ちる。力では押し負けてしまうと再考に見切りを付けても、土左衛門にとって解答‐カモフラージュ‐の持ち時間は、足跡を辿っている暇もなく、逃げられるとでも思ったのかと目減りしていくだけ。
刃物を引き抜こうとする男の背に駆けて来る捜査員が見えたから、揉み合いながらも捜査員の方へ男を蹴り飛ばした。刃物は弧を描きながら噴水へ落ち、尻餅を付き立ち上がろうとする男を、捜査員が引き倒しながら力づくで押さえ込みにかかる。悪あがきで心行くまで踠く男に、大人しくしろだの暴れるなだのといった書き起こせる程の怒号が飛ぶ。

蹴り飛ばした反動で膝から崩れ落ちる私を抱き止めたのは、張り込みのペアを組んでいた彼だった。
救急車を呼べとかタオルを持って来いとか、そういった焦りを含んだ言葉が飛び交う中で、彼に問うて親子の無事を確認する。
そして覚えている限りの、親子の名前とか男の素性とか三人の関係性とか、追々に代打‐アナライズ‐すれば事足りるだろうけれど、情報‐レーベル‐はテレグラムより素早く有り物より多い方がいい。静養が必要な程の恐怖でまともに話せないだろうから。
バックボーンが豁達豪放では不味いけれど、私自身も知らず知らずに口パクになっていくのは、生成的AIですら審議せずとも既定路線。
もう喋らないでくださいと、もう分かりましたからと、お願いですからと、すぐ隣にいる彼が自分せいだと慧眼の無さを嘆きながら私を呼ぶ。

裂いて割いて咲いてなし崩されて、プロムナードが赤色に染まっていく様は、感極まるほど滅多にお目にはかかれないだろう。
寝られるぐらい心地よい曲という声と運転という揺れによって、目を開けていられなくなる。
聞こえてきていた音が遠く離れてゆき、トントン拍子に感覚が分からなくなって、上澄みは何バレルか。

最後の最期の見所は、慣れた彼の声と温もりが最適解。