あいつの周りには常に女子がいる
キャーキャー言って纏わりついてる

みんなに笑顔を振り撒いて
平等にしなきゃいけないって大変だなぁって
頬杖つきながら遠巻きに見つめる


けれど誘いまくってるのを知ってる

俗にイケメンと呼ばれる部類のあいつに
ナンパされて自分はモテるんだと勘違いしてる女達

実はナメられて遊べそうだなって下に見られてること
熱中してるその労力は鳥瞰すれば虚しく後悔すること
誰とでも仲良く出来るのは誰にも心を開いてないこと
艶羨あっても冷笑にはいい加減気づかないんだろうか


ファンクラブとかもあるみたいだけど
了見の狭いカーストなんてものには
自ら近付かないのが平穏無事のコツ
平伏すようにして触らぬ神に祟りなし


デートを迫られた時の決まり文句は
みんなを大事にしたいから内緒だけど今回だけ特別だよ

隠れて隠してトップ屋抜きで成立させてしまう
適度に毒々しくて甘い甘いウィスパーボイス

相変わらずの自意識過剰っぷり
権力に悪知恵が加われば最凶ね


なんで知ってるかなんて野暮
あいつが勝手にベラベラ話すからに他ならない



遊んでるとか最低とか責められても困るんだよなぁ
こっちは頼まれたから付き合ってあげただけなのに

だの

俺様らしく振る舞ってやらないとみんなの迷惑になるだろ

だの

奴と仲良さげだけど止めとけ止めとけ
お前にはもったいない

だの

お前みたいな奴と付き合えるのは俺様ぐらいだ
客観的事実なんだから光栄に思えよ

だの



自由に惹かれたのに縛りたいと望んでしまう

そんな疼く矛盾を噛み締めても
考え方に差があったとしても

様子を伺いながら同意して欲しそうに
最低じゃないよって言って欲しそうに

ユーフォリアに浸るあいつの御饒舌を聞くには何ら支障がない


女共の過剰な嫉妬を避けたくて
あいつに嫌われたくなくて

空気を読みすぎた結果の距離感に
返答の一歩が踏み出せなくても


生欠伸と共に立ち去るのが私のルーティン



それはもう堂に行ってるはずだった



九夏三伏真っ盛りのここは別館の空き教室
こいつの背に見える琉球ガラスのような窓
今や過去の産物になったであろう壁ドンで


お前を思う気持ちは誰にも負けない自信がある


とか言われたって
今更信じられる訳ないでしょ


言い寄って言い寄られて
そんな状況を見せつけられたら
興味が無いって思うじゃん

やきもち焼かせる為とか
好きになると一途になるとか
知るわけないじゃん



ドクドクと打つ胸の痛みなんかより
正当化する頭ん中の方が現実感寄り

初見殺しもいいとこ

よくよく考えなきゃ気付くことが出来ない好意なんて
甘美に酔って感覚が麻痺してなくても到底無理な話だわ



こんなに人を好きになったことはない
お前と俺が出会ったのは運命なんだよ


なんて絞り出すように言われたら
いつもの軽々しさなんてふっとんで




つか黙りこくってないで何とか言えよ
と睨まれたから

それが答えってことくらい気付けバカ
って睨み返した