メディア・スクラムに遭った彼女は、
普段はオドオドしているくせに、
取材に限っては積極性が増し増しになる。


監視対象に気付かれないように、
ご自慢の黒いカメラを闇夜に紛れさせたりして。


そのギャップに翻弄されるこっちの身にもなれと、
彼女の上司でもある旧知の彼にこぼす。


だけれど、真摯に仕事に向き合う姿に、
誰の目にも等しく可愛がられているのは認めざるを得ないな。


そんな折、発生した事件。


かすかに残った手袋痕と
主治医が偽装した骨折と。


返り血を隠す為だろうと、
派手な工作をされ曰く付きの伝承に見立てられたそれから
見つけ出せた時には手応えを感じたのだが。


前歴者リストにはヒットしないし、
防犯カメラも死角が多くて役に立ちはしなかった。


そんな拮抗した状況が相まって、
偶然か必然か目撃してしまったその光景は、
俺にとって大スキャンダルだった。


かかってきた彼女からの電話も、
いつもならなんとか会話を引き伸ばそうと四苦八苦するのに、
サイレントベビーのサンピラーさながら。


忙しい、の一言で遮断した。


彼女のピンク色のアンスリウムへ
俺は紫色のライラックを
ピンク色のグラジオラスで
グズマニアのスクエアを描いていたことが嘘のように
プリザーブドフラワーと化してしまって。


オルフェーヴルのノートが
鍵盤(キー)だったことに気付いた時には、もう。


試作段階の名探偵(シェリング・フォード)さえ気取れない。


丁丁発止のシンポジウムやフォーラムもいいけれど、
口は1つですが耳は2つあるのですから、
話す2倍は聞かなければならないものですよ。


と、彼女に言われたことを何故だか今頃。


水銀レバーが誤作動したように
ウォーターハンマーが大解放されたように
ルミノールが即反応したように
咲かせてしまった。


可憐な藤袴を、白々しいほど美しく。