「千鶴!!おっはよーっ!今日も元気か!?」

源藍子が、騒がしく親友の神原千鶴(カンバラ チヅル)に挨拶する。
千鶴は、ふふ、と可愛らしく笑うと親友に答えた。
「おはよう。私は元気よ。そうでなければ、学校に来ていないわ」
「あ、それもそうだねー」
ショートヘアをなびかせながら、藍子はこれでもかというくらい、千鶴の周りをくるくる回る。
その様子は、正にじゃじゃ馬だ。
「神原ー。飼い犬の世話大変そうだなー」
登校中の二人の後ろから、クラスメイトの男子数人が冷やかしながら通る。
「だ、誰が犬だっ!人間始めて十四年経ってるわ!!」
負けじと、藍子が食ってかかる。
そんな光景が、毎日の恒例だ。
千鶴は嬉しかった。
今、自分がこの光景を見れているということに。

千鶴は昔から体が弱い。入院がちで、小学五年生の時には、三途の川を渡りかけたくらいである。
そんな彼女を支えてくれているのは、親友の藍子。
彼女はいつも明るくて、千鶴にとって太陽のような存在だ。
千鶴は、親友として藍子が好きだった。
小さい頃からいつも一緒で、自分が入院した時も、真っ先にお見舞いに来てくれている。
大雑把なように見えて、実はとても優しい藍子。そんな藍子に、何度なりたいと憧れたか。

気付くと、男子と口論を終えた藍子が、千鶴の隣に戻っていた。
「そいじゃ、学校行こうっ!」
もう向かっている筈なのだけど。
千鶴はもう一度可愛らしく笑うと、頷いた。
「うん。行こう、藍子ちゃん」



元気そうな千鶴の横顔を見て、藍子は微笑む。

そういえば何か忘れている気がするけど、きっと筆箱とかそんな物だろう。
藍子は一人納得した。






仲良く登校する藍子と千鶴の後ろに、一風変わった少年が近付く。
そして、ぼそりと呟いた。


「約束の日だ。源藍子……」