鳩尾を5回ほど蹴られ、耐えきれなくなった僕はお昼を戻してしまった。

「きったねぇなぁ~吐いでんでねぇわくそ女男」

語彙が乏しく、それしか言えないらしい。



どうしよう。どうしたらいいんだろう。


ああ…ここを出られたら。


出よう。




出なきゃ、僕がいなくなってしまう。







「そご掃除しとげよ」






そう言って先輩はトイレに入った。







「今しかない…」









気づいたら、僕は夜の街へ走り出していた。






行く宛てもないのに。





どうせすぐに、捕まってしまうのに。






案の定、


「真咲ッ、待でごらぁぁぁああぁあ」







神は、残酷だ。



振り返れば、先輩がもの凄い形相で走ってくる。




今の体力じゃ…捕まる。




嫌だ…
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ



「はぁッ、はぁッ…んッ、はぁッ…」


曲がり角を曲がって、細い路地を出てネオン街の人混みの中を走る。


まずい…追いつかれる…ッ!


先輩が角を曲がってきた。


襲ってきたのは絶望と恐怖。




「助けて…助けてッください!誰かッ」



「真咲ッ!!」




「いやッ…やあッ…やだあッ…はぁッ」



僕はパニック寸前だった。





「君、こっち」

その声は、すごく優しくて。
その声に、きっと助けられたんだ。




ワゴン車の隣に立って、僕の方へ伸ばしてくれた僕より背の低い誰かの手を、とった。



「出して」


押し込まれて、一緒に乗り込んでドアを閉め、車を発進させると、こちらに気づいた先輩が何やら叫んでいる。



耳を塞いで、ただ震えていた。