靄のかかった脳内を必死に探って何とか思い出せたのは、飲み過ぎを心配する店主の言葉くらいだった。まずはこの二日酔いを抜かなければ、頭も使いものになりそうにない。これまで、酒にのまれたことは一度もない。大抵、酔い潰れた誰かの世話をするのが、横澤の役目だった。記憶のない朝を迎えるなんて想像すらしたことがなかった。やや乱暴に首をふると少しだけ意識がはっきりする。
重怠い目蓋を指で揉みほぐし、何度か瞬きを繰り返す。その時視界に映った自分の体に、違和感のようなものを感じた。
「………………」
脱いだ覚えもないのに、何故か服を着ていなかった。気になって、そっと上掛けをまくってみる。
「!?」
下着すら着けていないことがわかり、慌てて下半身をかくす。
酔っ払っている時に脱ぎ散らかしたのかもしれない。そう思い、室内を見回してみたが、スーツのジャケットどころか、靴下の片方すら見当たらなかった。
辛うじてトランクスがベットのしたに落ちていたため、手を伸ばしてひろう。
ベットの中でそれに足を通し、一息つく。一枚きているのときていないのでは、心許なさが段違いだ。
室内を観察した時に、もう一つきづいたことがあった。シャワーの音だ。
どうやら、夢現で雨音と錯覚したのは、バスルームから聞こえてくる水音だったらしい。しかし、問題はそこではない。
シャワーの音が聞こえるということは、それを使用している者がいるということだ。